キャリアシンポジウム「国際協力×バイリンガリズム—世界を生き抜く異文化コミュニケーション力—」開催レポート
異文化コミュニケーション学部 4年次 名取 あかねさん、1年次 庵本 愛斗さん、1年次 瀧上 奈月さん
2024/03/21
立教生のキャンパスライフ
OVERVIEW
2023年11月25日(土)、異文化コミュニケーション学部主催「第6回キャリアシンポジウム」を開催しました。イベントの様子を在学生が報告します。
2023年11月25日(土)、「国際協力×バイリンガリズム—世界を生き抜く異文化コミュニケーション力—」というタイトルのもと、異文化コミュニケーション学部主催のキャリアシンポジウムが開催されました。今回のシンポジウムでは、4つのパートに分かれてプログラムが進行されました。はじめに、本学部教員の石黒武人准教授のファシリテートの下、本学部教授石井正子先生と森聡美先生による基調対談が行われました。その後、本学部卒業生と在学生によって、二つの領域をテーマにパネルディスカッションが行われ、プログラムの後半では、ポスター発表の場として、在学生による地域・社会連携活動や学生団体について様々な活動が紹介されました。また、今年度より新たな取り組みとして、株式会社ソーシャライズ様のご協力のもと、課題解決型インターンシップの成果発表会を行いました。
基調対談
異文化コミュニケーション学を専門とされる石黒先生のファシリテートのもと、専門分野が異なる石井先生、森先生による基調対談が行われました。石井先生は、国際協力をご専門とし、1994年頃から50年以上武力紛争が続くフィリピンのミンダナオ島にてフィールドワークを行う傍ら、アフガニスタン、南スーダン、東ティモールなどの武力紛争地域における緊急人道支援を行う団体であるジャパン・プラットフォーム(JPF)の活動に約12年間携わって来られました。一方で、森先生は、バイリンガリズムや言語習得の研究をされており、学童期の海外生活のご経験から、ご自身がバイリンガルであること、そして学生時代に出会った1冊の心理言語学の本との出会いを通して、研究者の道を志すようになったと話されていました。このように専門が全く異なる石井先生と森先生によって、それぞれの学問領域である国際協力とバイリンガリズムの結びつきがどのような異文化コミュニケーション力を形成していくのかについて議論を通じて深く考えるという機会が提供されました。
まずはじめに、「国際協力の現場における二言語・多言語併用の有無、またそれにあたっての課題があるか」という質問に対し、石井先生は「緊急人道支援が必要な現場での会議において、的確な情報の把握のためには英語使用が不可欠である。さらに、現地の人々の声を聞くために現地語を話せる通訳を要するという課題がある」と述べられました。森先生はこの意見に補足する形で、通訳を介した時の感情伝達の難しさを指摘されました。被災や紛争下に生きる人々が痛みを伴うような複雑な感情を吐き出す際には、自身の第一言語で行いたいという欲求があることがバイリンガリズム研究を通して示されているため、世界共通語として大きな役割を果たしている英語であっても、万能ではないことが強調されました。また、複数言語併用が見られる地域も多数あり、言語の多様性について理解を深めておく必要性を訴えました。これらの見解を受けて、石黒先生は現地のニーズを汲み取る際の通訳の限界や課題について質問を投げかけました。石井先生は「被災直後などは特に、感情をうまく言葉にできないことに加え、異文化間の相違を尊重する能力が求められる。そのような力は異なる文化背景を持つ人たちと協働する上でも重要であり、衝突しながらも相互理解を深め、認め合いながら協力することが必要である」と話されました。
森先生はこれに続けて、「多言語・多文化間を常に移動するバイリンガルは、社会を多様に捉えることのできる社会認知力が育まれていく。言葉が必ずしも上手く伝わらない状況を頻繁に経験してきた彼らは、相手の視点に立って物事を考えることができ、コミュニケーション上における困難を乗り越えやすい」と意見を述べられました。このような能力は石黒先生によると、「empathy(共感力)」と呼ばれ、「全く同じではなくとも、似たような形で相手の立場、考えを理解し、感じることができる力」であり、「完全に相手のことを理解できない中で、どれだけ『意味』を共有できるかが異文化コミュニケーションにおいて重要である」と補足されました。石井先生はこのempathyの発揮について、2004年に起こったインドネシアのスマトラ島沖大地震後に行われた住民参加型の住宅再建支援の例を話されました。多様な言語・文化背景を持つ人々が恊働する現場ということもあり、様々な衝突があり順調には進まなかったそうです。そのような状況下で、村長が中心となり話し合いを重ねることで解決に向かい、村民たちのあいだに当事者意識が芽生えたという成功例が紹介されました。石井先生は、「このような試練を乗り越えるためのレジリエンスや寛容さを持つ人に対する尊重や感謝の意を含めたempathyを持つこと、その人へのサポート精神を共有することも大事である」との見解を示しました。石黒先生によると、そのような人材は「ブリッジパーソン」と呼ばれ、「多文化組織を運営していく中でも非常に重要な役割を果たす」とコミュニケーションの専門家の視点から意見が補足されました。
次の質問では、日本国内の国際協力の現場におけるバイリンガルな言語環境の現状や課題について議論が行われました。石井先生は、「日本における国際協力の在り方について、これからは支援の立場だけではなく『受援』の視点についても考えていくべきである」と強調されました。東日本大震災では医療チーム派遣のオファーは30カ国からあったそうですが、様々な事情から4ヵ国しか受け入れを行わなかったという事例から、災害の多い日本が海外からの支援を受け入れる受援体制を整備していくことは必要不可欠であると話されました。森先生は、日本国内の国際協力の在り方として、移民や避難民の受け入れ拡大に伴う海外にルーツを持つ子どもたちについて言及し、現地語である日本語が彼らにとってどのような意味を持つのかを認識することが「言葉の支援」を改善する上で重要であるとの意見が示されました。石黒先生は、「言語がwell-being(幸福)を実現するために欠かせない存在である」という森先生の見解に理解を示すと共に、「母語をどのように位置付け、捉えていかなければならないのか」という質問を投げかけました。森先生は、第一言語が認知活動を支える上で欠かせない存在であることを考慮し、「現地語のみの教育を展開するだけでは解決にならず、母語を取り入れるような教育の複言語化の重要性」を訴えました。
最後に以上の議論を踏まえて、異文化コミュニケーション学部ではどのような教育に取り組んでいるかについて、森先生と石井先生に質問が投げかけられました。石井先生は今後の国際協力には支援だけではなく「受援」の視点が重要であることを強調した上で、受援の立場を擬似的に体験するワークショップを取り入れた授業を展開していると話されました。一方で、森先生は学部生全員の参加が原則必須の海外留学研修に加え、立教日本語教室や近隣の中学校への言語支援である入り込み活動、小中学生の英語による交流を促すためのEnglish Campに挙げられる「実践的活動」と専門科目で理論や先行研究を学ぶ「机上の学び」の横断的学習ができる環境が本学部の独自性であり、これからの実社会に求められてくる実践と理論の統合ができる人材を育てるための重要なカリキュラムとなっていると述べられました。さらに加えて、石井先生は国際協力における実践的な授業には海外・国内フィールドスタディもあり、国内外の課題を分けて考えるのではなく、つなげて解決を模索する姿勢を養いたいと補足されました。これらの活動や授業は、続くポスター発表でも学生から発表されると紹介し、基調対談は幕を閉じました。
今回の基調対談を拝聴し、筆者自身、疑問に感じたことを質疑応答の時間に質問させて頂きました。それは、「海外にルーツを持つ子どもたちの『受援』の姿勢も育成していく必要があるのではないか」という問いです。これに対して、石井先生は東日本大震災を例にあげ、外国にルーツを持つ方々だけではなく、私たち日本人こそが「受援」の態度を育成していく必要があることを指摘されました。「日本人はどこか『支援を受けるのは申し訳ない』や、『自立しなければならない』というような気持ちを持ちやすい。しかし、助けてくれる人々のことを考えてみるとそのようなご厚意を素直に受け取って欲しいと思うのが自然である」とした上で、お互い困った時に助け合える「共助」の関係を築くことが重要であるとの見解を示されました。森先生はそれに加えて、「支援を拒絶する背景として文化に基づいた考え方や個人の価値観に依拠する可能性がある」とした上で、社会と個人、ミクロとマクロの両方のレベルで「受援」の重要性が理解・認識されていない現状もあり、知識を広めて認識を深めていくことが求められていくと指摘されました。
基調対談を通して筆者が感じたことは、国際協力には支援の視点だけでなく、「受援」の立場に立って考えることが重要であるということ、さらに加えて、その現場に携わる者の言語・非言語を介した感情の汲み取りが重要であることが分かりました。また、国内外におけるバイリンガル話者に対する教育は今後多様化されていくべきであり、それにより、国際協力がより身近となるだけでなく、円滑に行うことができたり、バイリンガル話者の存在価値がさらに大きなものとなると確信させてくれた対談であったと思います。筆者は、これまで国際協力について、国連やNGO、国際政治が関わることでしか解決できないというような規模の大きな問題として捉えていましたが、バイリンガル研究の視点を交えた議論を拝聴し、国際協力の現場は思った以上に身近にあり、かつ日英語話者である自分が役立てるフィールドなのだということを再認識しました。また、この対談を通して、私は、特に、「複数の言語を持つことによる社会的認識の多角化が『受援』の姿勢を促進したり、多文化共生社会を構築していくために必要な要素になる」と感じました。また、今後の大学生活の中で、バイリンガル教育の在り方や意義について、さらに深堀りし、それがグローバル化する社会にとってどのような利益をもたらすのかについてもっと研究したいと思い、勉学に対する動機が様々な方向から刺激された大変貴重な経験となりました。
最後に、今年の元旦から起こった能登半島地震により、多くの人が避難生活を強いられ、大事な人を失う、離れ離れになるなどの精神的なダメージを負っています。また、世界に目を向けると、ガザ地区における紛争に苦しむ避難民の方々が日々の爆撃の恐怖に震えています。その中で、現地の人々がその地域の言語・方言を混じえながら胸に秘めた想いを告白し、涙が溢れ出す様子をメディアを通して見ると毎日胸が締め付けられます。そのような状況を垣間見ても、自分の言葉で想いを話すことの重要性が現実味を帯びたものとして伝わるのではないでしょうか。今回の対談は私たちの未来をより良くするため、そして、そのための「今」を考えるための知見を与えてくれた機会だったと思います。筆者自身もこの対談で得た視点を大切に、未来を担う人材としての行動指針としていきたいと思います。(1年次 庵本愛斗)
まずはじめに、「国際協力の現場における二言語・多言語併用の有無、またそれにあたっての課題があるか」という質問に対し、石井先生は「緊急人道支援が必要な現場での会議において、的確な情報の把握のためには英語使用が不可欠である。さらに、現地の人々の声を聞くために現地語を話せる通訳を要するという課題がある」と述べられました。森先生はこの意見に補足する形で、通訳を介した時の感情伝達の難しさを指摘されました。被災や紛争下に生きる人々が痛みを伴うような複雑な感情を吐き出す際には、自身の第一言語で行いたいという欲求があることがバイリンガリズム研究を通して示されているため、世界共通語として大きな役割を果たしている英語であっても、万能ではないことが強調されました。また、複数言語併用が見られる地域も多数あり、言語の多様性について理解を深めておく必要性を訴えました。これらの見解を受けて、石黒先生は現地のニーズを汲み取る際の通訳の限界や課題について質問を投げかけました。石井先生は「被災直後などは特に、感情をうまく言葉にできないことに加え、異文化間の相違を尊重する能力が求められる。そのような力は異なる文化背景を持つ人たちと協働する上でも重要であり、衝突しながらも相互理解を深め、認め合いながら協力することが必要である」と話されました。
森先生はこれに続けて、「多言語・多文化間を常に移動するバイリンガルは、社会を多様に捉えることのできる社会認知力が育まれていく。言葉が必ずしも上手く伝わらない状況を頻繁に経験してきた彼らは、相手の視点に立って物事を考えることができ、コミュニケーション上における困難を乗り越えやすい」と意見を述べられました。このような能力は石黒先生によると、「empathy(共感力)」と呼ばれ、「全く同じではなくとも、似たような形で相手の立場、考えを理解し、感じることができる力」であり、「完全に相手のことを理解できない中で、どれだけ『意味』を共有できるかが異文化コミュニケーションにおいて重要である」と補足されました。石井先生はこのempathyの発揮について、2004年に起こったインドネシアのスマトラ島沖大地震後に行われた住民参加型の住宅再建支援の例を話されました。多様な言語・文化背景を持つ人々が恊働する現場ということもあり、様々な衝突があり順調には進まなかったそうです。そのような状況下で、村長が中心となり話し合いを重ねることで解決に向かい、村民たちのあいだに当事者意識が芽生えたという成功例が紹介されました。石井先生は、「このような試練を乗り越えるためのレジリエンスや寛容さを持つ人に対する尊重や感謝の意を含めたempathyを持つこと、その人へのサポート精神を共有することも大事である」との見解を示しました。石黒先生によると、そのような人材は「ブリッジパーソン」と呼ばれ、「多文化組織を運営していく中でも非常に重要な役割を果たす」とコミュニケーションの専門家の視点から意見が補足されました。
次の質問では、日本国内の国際協力の現場におけるバイリンガルな言語環境の現状や課題について議論が行われました。石井先生は、「日本における国際協力の在り方について、これからは支援の立場だけではなく『受援』の視点についても考えていくべきである」と強調されました。東日本大震災では医療チーム派遣のオファーは30カ国からあったそうですが、様々な事情から4ヵ国しか受け入れを行わなかったという事例から、災害の多い日本が海外からの支援を受け入れる受援体制を整備していくことは必要不可欠であると話されました。森先生は、日本国内の国際協力の在り方として、移民や避難民の受け入れ拡大に伴う海外にルーツを持つ子どもたちについて言及し、現地語である日本語が彼らにとってどのような意味を持つのかを認識することが「言葉の支援」を改善する上で重要であるとの意見が示されました。石黒先生は、「言語がwell-being(幸福)を実現するために欠かせない存在である」という森先生の見解に理解を示すと共に、「母語をどのように位置付け、捉えていかなければならないのか」という質問を投げかけました。森先生は、第一言語が認知活動を支える上で欠かせない存在であることを考慮し、「現地語のみの教育を展開するだけでは解決にならず、母語を取り入れるような教育の複言語化の重要性」を訴えました。
最後に以上の議論を踏まえて、異文化コミュニケーション学部ではどのような教育に取り組んでいるかについて、森先生と石井先生に質問が投げかけられました。石井先生は今後の国際協力には支援だけではなく「受援」の視点が重要であることを強調した上で、受援の立場を擬似的に体験するワークショップを取り入れた授業を展開していると話されました。一方で、森先生は学部生全員の参加が原則必須の海外留学研修に加え、立教日本語教室や近隣の中学校への言語支援である入り込み活動、小中学生の英語による交流を促すためのEnglish Campに挙げられる「実践的活動」と専門科目で理論や先行研究を学ぶ「机上の学び」の横断的学習ができる環境が本学部の独自性であり、これからの実社会に求められてくる実践と理論の統合ができる人材を育てるための重要なカリキュラムとなっていると述べられました。さらに加えて、石井先生は国際協力における実践的な授業には海外・国内フィールドスタディもあり、国内外の課題を分けて考えるのではなく、つなげて解決を模索する姿勢を養いたいと補足されました。これらの活動や授業は、続くポスター発表でも学生から発表されると紹介し、基調対談は幕を閉じました。
今回の基調対談を拝聴し、筆者自身、疑問に感じたことを質疑応答の時間に質問させて頂きました。それは、「海外にルーツを持つ子どもたちの『受援』の姿勢も育成していく必要があるのではないか」という問いです。これに対して、石井先生は東日本大震災を例にあげ、外国にルーツを持つ方々だけではなく、私たち日本人こそが「受援」の態度を育成していく必要があることを指摘されました。「日本人はどこか『支援を受けるのは申し訳ない』や、『自立しなければならない』というような気持ちを持ちやすい。しかし、助けてくれる人々のことを考えてみるとそのようなご厚意を素直に受け取って欲しいと思うのが自然である」とした上で、お互い困った時に助け合える「共助」の関係を築くことが重要であるとの見解を示されました。森先生はそれに加えて、「支援を拒絶する背景として文化に基づいた考え方や個人の価値観に依拠する可能性がある」とした上で、社会と個人、ミクロとマクロの両方のレベルで「受援」の重要性が理解・認識されていない現状もあり、知識を広めて認識を深めていくことが求められていくと指摘されました。
基調対談を通して筆者が感じたことは、国際協力には支援の視点だけでなく、「受援」の立場に立って考えることが重要であるということ、さらに加えて、その現場に携わる者の言語・非言語を介した感情の汲み取りが重要であることが分かりました。また、国内外におけるバイリンガル話者に対する教育は今後多様化されていくべきであり、それにより、国際協力がより身近となるだけでなく、円滑に行うことができたり、バイリンガル話者の存在価値がさらに大きなものとなると確信させてくれた対談であったと思います。筆者は、これまで国際協力について、国連やNGO、国際政治が関わることでしか解決できないというような規模の大きな問題として捉えていましたが、バイリンガル研究の視点を交えた議論を拝聴し、国際協力の現場は思った以上に身近にあり、かつ日英語話者である自分が役立てるフィールドなのだということを再認識しました。また、この対談を通して、私は、特に、「複数の言語を持つことによる社会的認識の多角化が『受援』の姿勢を促進したり、多文化共生社会を構築していくために必要な要素になる」と感じました。また、今後の大学生活の中で、バイリンガル教育の在り方や意義について、さらに深堀りし、それがグローバル化する社会にとってどのような利益をもたらすのかについてもっと研究したいと思い、勉学に対する動機が様々な方向から刺激された大変貴重な経験となりました。
最後に、今年の元旦から起こった能登半島地震により、多くの人が避難生活を強いられ、大事な人を失う、離れ離れになるなどの精神的なダメージを負っています。また、世界に目を向けると、ガザ地区における紛争に苦しむ避難民の方々が日々の爆撃の恐怖に震えています。その中で、現地の人々がその地域の言語・方言を混じえながら胸に秘めた想いを告白し、涙が溢れ出す様子をメディアを通して見ると毎日胸が締め付けられます。そのような状況を垣間見ても、自分の言葉で想いを話すことの重要性が現実味を帯びたものとして伝わるのではないでしょうか。今回の対談は私たちの未来をより良くするため、そして、そのための「今」を考えるための知見を与えてくれた機会だったと思います。筆者自身もこの対談で得た視点を大切に、未来を担う人材としての行動指針としていきたいと思います。(1年次 庵本愛斗)
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、本学部卒業生で「特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会」所属の鈴木香緒理さん(2013年卒)、同じく卒業生でパナソニックエナジー株式会社に勤務されている佐藤孝彦さん(2016年卒)、本学部4年次のソンダビンさん、3年次の坂本仰生さんの4名によって意見が交わされました。
はじめに、基調対談を聞いた上での感想を聞かれると、鈴木さんは自身がネパールで行った洪水対策事業を例に、現地住民の方々に、「なぜプロジェクトが必要なのか」理解してもらうことの重要性について触れ、「受援」する側に立った支援を行うことの大切さを再確認したと話されていました。一方で、佐藤さんは、コンゴ在外公館にて現地職員の要望を日本人職員に伝達する仲介者の役割を担った経験を振り返りながら、「国際協力の現場では、現地の人々の本音を理解し、伝達するために現地語を理解することが大切である」と話されていました。お二人の意見とも現場を踏まえた貴重なもので、学部での学びが将来のキャリアに深く繋がっていることを実感することができました。
一方で、学部生のソンさんは、両親と自身の母国語が違うという生い立ちを交えながら「家庭内でのバイリンガルの環境」について、基調対談での森先生のご見解と関連させて意見を述べていました。また、韓国留学の体験について、日常生活を第二言語の韓国語、授業を第三言語の英語で過ごしながら自分の感情を整理することに困難を感じる一方で、それらを日本語で書き起こすことで自分の中に落とし込むことができたという経験について触れ、「二言語で学ぶことの大切さ」について話されました。坂本さんはパレスチナでのボランティア経験を経て感じた「文化的コンテクストが違うこと」と「言語が違うこと」という二つの難しさについて言及されました。前者については、多文化環境に日頃から身を置くことや、共通点を探すことを意識することで摩擦が少なくなるのではないかという考察をされていました。後者については、自分が全く話せない言語を母語とし、まだ自身の考えを100%話せるわけではない子どもたちと話すうえで、マルチリンガルであることの大切さを実感したという経験談をお話しされていました。
ディスカッション中盤では、卒業生のお二人に対し、「自身のキャリアに学部での学びがどのように活かされているか」という質問がありました。これに対し鈴木さんは、「学部の学びを通して、相手の文化を理解したいという姿勢が育まれ、その志のもとネパールで過ごす中で現地の人々と真に通じ合えた」というまさに異文化コミュニケーションの成功体験を挙げられました。続いて佐藤さんは、言語習得のハードルが下がり新しい言語を習得できたことで現地の人々との相互理解が深まった点、異文化を否定しない敬意の姿勢を得られた点の二点を挙げられました。特に前者については、第二外国語を学習している筆者にとってもモチベーションが高まるようなお話でした。
はじめに、基調対談を聞いた上での感想を聞かれると、鈴木さんは自身がネパールで行った洪水対策事業を例に、現地住民の方々に、「なぜプロジェクトが必要なのか」理解してもらうことの重要性について触れ、「受援」する側に立った支援を行うことの大切さを再確認したと話されていました。一方で、佐藤さんは、コンゴ在外公館にて現地職員の要望を日本人職員に伝達する仲介者の役割を担った経験を振り返りながら、「国際協力の現場では、現地の人々の本音を理解し、伝達するために現地語を理解することが大切である」と話されていました。お二人の意見とも現場を踏まえた貴重なもので、学部での学びが将来のキャリアに深く繋がっていることを実感することができました。
一方で、学部生のソンさんは、両親と自身の母国語が違うという生い立ちを交えながら「家庭内でのバイリンガルの環境」について、基調対談での森先生のご見解と関連させて意見を述べていました。また、韓国留学の体験について、日常生活を第二言語の韓国語、授業を第三言語の英語で過ごしながら自分の感情を整理することに困難を感じる一方で、それらを日本語で書き起こすことで自分の中に落とし込むことができたという経験について触れ、「二言語で学ぶことの大切さ」について話されました。坂本さんはパレスチナでのボランティア経験を経て感じた「文化的コンテクストが違うこと」と「言語が違うこと」という二つの難しさについて言及されました。前者については、多文化環境に日頃から身を置くことや、共通点を探すことを意識することで摩擦が少なくなるのではないかという考察をされていました。後者については、自分が全く話せない言語を母語とし、まだ自身の考えを100%話せるわけではない子どもたちと話すうえで、マルチリンガルであることの大切さを実感したという経験談をお話しされていました。
ディスカッション中盤では、卒業生のお二人に対し、「自身のキャリアに学部での学びがどのように活かされているか」という質問がありました。これに対し鈴木さんは、「学部の学びを通して、相手の文化を理解したいという姿勢が育まれ、その志のもとネパールで過ごす中で現地の人々と真に通じ合えた」というまさに異文化コミュニケーションの成功体験を挙げられました。続いて佐藤さんは、言語習得のハードルが下がり新しい言語を習得できたことで現地の人々との相互理解が深まった点、異文化を否定しない敬意の姿勢を得られた点の二点を挙げられました。特に前者については、第二外国語を学習している筆者にとってもモチベーションが高まるようなお話でした。
一方で、学部生のお二人には「バイリンガリズム・国際協力の領域において、学部での学びや留学を通して、異文化コミュニケーションへの理解が深まった経験はあるか」という問いが出されました。これに対しソンさんは、留学中に他学部の現地学生とグループワークをした際、準備段階で現地学生の第一言語である韓国語を使ったことにより、互いに自分の意見を正直に話すことができ、心理的距離が縮まり団結力が高まったという経験を話されていました。これらの体験から、二言語併用によって問題に対し双方向からアプローチすることの大切さを実感したと述べられていました。一方、坂本さんは、国際協力、バイリンガリズムの二つの観点から言及されました。まず、国際協力の観点では、「国内フィールドスタディ」の授業によって国内外の問題を当事者、または仲介者の立場に接近して理解したり、学びと実践を行き来したりすることで平和が草の根レベルから築かれていくプロセスを理解すると共に、異文化コミュニケーションをよりミクロな視点から捉え直すことができたと話されました。続いてバイリンガリズムの観点からは、異なる言語を切り替えながら駆使するDLP(Dual Language Pathway)プログラムによって、言語が持つそれぞれの物差しで物事を理解することの大切さを実感したと話されていました。
最後に、4人の登壇者にとっての「異文化コミュニケーション力とは何か」という質問が投げかけられました。これに対し、鈴木さんは「相互理解への入口であり、その異文化理解を多文化共生へもっていくための大切な要素」と話され、また、佐藤さんは「本音で喜怒哀楽をぶつけることで生まれる絆やネットワークといった言語、文化を超越した人と人との『つながり』を生むもの」との見解を示されました。一方で学部生のソンさんは、「みんなの生活に潜んでいるもので、考え方や価値観が違うだけでも異文化である」と異文化の定義について触れたうえで、「外国に関わる人だけではなく誰しもにとって大切な、国際社会を生き抜き、人生を豊かにする上で必要なスキル」と話されました。坂本さんは、「自分が無知であることを自覚すること」が異文化コミュニケーション力であり、これにより「他者を傷つけないためにはどうしたら良いかと試行錯誤することができる」と指摘されたことに加えて、DLPプログラムについて、「様々なバックグラウンドをもつ学生と協働することで異文化コミュニケーションを学ぶことができる完璧な環境」と、自身が学部で学びながら感じていることについても話されました。
このパネルディスカッションとこれまでの学部での学びを照らし合わせ、学部生である筆者自身も自分にとっての異文化コミュニケーションとは何かを考えさせられました。筆者は、異文化コミュニケーションとは、自分と他者との「ちがい」に気づき、相互交流し、そこから相手だけでなく、自分を見つめていくことなのではないかと考えました。異文化理解や多文化共生と聞くと、自分が他者の「ちがい」を理解し、寛容になっていったり、他者のために行動をするようになったりと、「相手を尊重する」ことをイメージしがちです。しかし、真の異文化コミュニケーションとは、「自己」を含む世界中の全員に目を向けることであり、そのためには、今回登壇された4人の発表者の方々のように、自分と「ちがう」他者に触れ、自己を見直すことが不可欠なのではないかと感じました。(1年次 瀧上奈月)
最後に、4人の登壇者にとっての「異文化コミュニケーション力とは何か」という質問が投げかけられました。これに対し、鈴木さんは「相互理解への入口であり、その異文化理解を多文化共生へもっていくための大切な要素」と話され、また、佐藤さんは「本音で喜怒哀楽をぶつけることで生まれる絆やネットワークといった言語、文化を超越した人と人との『つながり』を生むもの」との見解を示されました。一方で学部生のソンさんは、「みんなの生活に潜んでいるもので、考え方や価値観が違うだけでも異文化である」と異文化の定義について触れたうえで、「外国に関わる人だけではなく誰しもにとって大切な、国際社会を生き抜き、人生を豊かにする上で必要なスキル」と話されました。坂本さんは、「自分が無知であることを自覚すること」が異文化コミュニケーション力であり、これにより「他者を傷つけないためにはどうしたら良いかと試行錯誤することができる」と指摘されたことに加えて、DLPプログラムについて、「様々なバックグラウンドをもつ学生と協働することで異文化コミュニケーションを学ぶことができる完璧な環境」と、自身が学部で学びながら感じていることについても話されました。
このパネルディスカッションとこれまでの学部での学びを照らし合わせ、学部生である筆者自身も自分にとっての異文化コミュニケーションとは何かを考えさせられました。筆者は、異文化コミュニケーションとは、自分と他者との「ちがい」に気づき、相互交流し、そこから相手だけでなく、自分を見つめていくことなのではないかと考えました。異文化理解や多文化共生と聞くと、自分が他者の「ちがい」を理解し、寛容になっていったり、他者のために行動をするようになったりと、「相手を尊重する」ことをイメージしがちです。しかし、真の異文化コミュニケーションとは、「自己」を含む世界中の全員に目を向けることであり、そのためには、今回登壇された4人の発表者の方々のように、自分と「ちがう」他者に触れ、自己を見直すことが不可欠なのではないかと感じました。(1年次 瀧上奈月)
ポスター発表
ポスター発表では、異文化コミュニケーション学部生の正課や正課外活動など計15団体・プロジェクトが発表を行いました。海外・国内フィールドスタディ、インターンシップ、サービスラーニング、English Campなどが授業の内容や学んだことについて発表を行い、立教日本語教室、LINK CIC、BRIDGE CIC NEWS、SEAGULLなどの団体が各活動の報告を行いました。シンポジウム参加者が各ブースに移動して、本学部の活動や団体の魅力を学生のポスター発表を通して知る機会となりました。
私の所属する学部公認学生団体BRIDGE CIC NEWSでは「学部の今」を伝える目的で、学部広報誌を卒業生や在校生の保護者の方に届ける活動を行っています。過去の記事を参考資料として用い、記事がどのように作られ読者の手元に届くのかを補足しながら説明しました。シンポジウムでの講義内容のテーマと関連付けて、複数言語を用いて活動していることに関して、難しさなどを感じるかなどの質問もありました。団体としての活動だけでなく個人としての悩みなどを思い返しながら伝えることができたのは、学部での生活を振り返る機会にもなりました。卒業生のゲストの方々からは「いつも届くのを楽しみにしている。学生だった頃を懐かしく感じる」などの言葉をかけていただき、これからも記事を通し、学部と繋がっていることを感じていただけるように発信していきたいと感じました。また高校生のゲストの方からは、過去の記事を手に取り「完成度の高い記事に驚きました」とおっしゃっていたことも印象的でした。今回BRIDGE CIC NEWSの魅力を1人でも多くの人に伝えたいという思いでシンポジウムに参加したのですが、ポスター発表を通じて人との関わりの中で自分自身が成長していることを改めて実感しました。
今回、私はBRIDGE CIC NEWSの編集長として参加しましたが、学部生が参加できる国際的なフィールドの多様性や学生が主体となって学外の方々とも積極的にコミュニケーションを取りながら進めていく活動の魅力は、学生生活をより充実させるものだと思います。今回ポスター発表に参加した全てのプログラムに共通していることは、他者との関わりの中から、日々の学びを実践的に社会に還元していこうと取り組んでいることが挙げられます。このように、他者との「ちがい」を通して新たな自分を発見し、大学生活の中で学びの先を描いていける点が本学部の最大の魅力だと改めて感じました。(4年次 名取あかね)
私の所属する学部公認学生団体BRIDGE CIC NEWSでは「学部の今」を伝える目的で、学部広報誌を卒業生や在校生の保護者の方に届ける活動を行っています。過去の記事を参考資料として用い、記事がどのように作られ読者の手元に届くのかを補足しながら説明しました。シンポジウムでの講義内容のテーマと関連付けて、複数言語を用いて活動していることに関して、難しさなどを感じるかなどの質問もありました。団体としての活動だけでなく個人としての悩みなどを思い返しながら伝えることができたのは、学部での生活を振り返る機会にもなりました。卒業生のゲストの方々からは「いつも届くのを楽しみにしている。学生だった頃を懐かしく感じる」などの言葉をかけていただき、これからも記事を通し、学部と繋がっていることを感じていただけるように発信していきたいと感じました。また高校生のゲストの方からは、過去の記事を手に取り「完成度の高い記事に驚きました」とおっしゃっていたことも印象的でした。今回BRIDGE CIC NEWSの魅力を1人でも多くの人に伝えたいという思いでシンポジウムに参加したのですが、ポスター発表を通じて人との関わりの中で自分自身が成長していることを改めて実感しました。
今回、私はBRIDGE CIC NEWSの編集長として参加しましたが、学部生が参加できる国際的なフィールドの多様性や学生が主体となって学外の方々とも積極的にコミュニケーションを取りながら進めていく活動の魅力は、学生生活をより充実させるものだと思います。今回ポスター発表に参加した全てのプログラムに共通していることは、他者との関わりの中から、日々の学びを実践的に社会に還元していこうと取り組んでいることが挙げられます。このように、他者との「ちがい」を通して新たな自分を発見し、大学生活の中で学びの先を描いていける点が本学部の最大の魅力だと改めて感じました。(4年次 名取あかね)
オンキャンパスインターンシップ
異文化コミュニケーション学部では、株式会社ソーシャライズ代表の中村拓海様のご協力のもと、「立教大学キャンパス内で学年や出身国を問わず参加できる課題解決型インターンシップ」として一昨年度からOn Campus Internshipを実施しています。今年度は、株式会社商船三井(以下、商船三井)様の外国人人材事業チームをお迎えし、実際のビジネスの現場で活用できる提案づくりに取り組みました。今回のプログラムには留学生と筆者を含む計8人が参加しました。
プログラム全体を通して商船三井様より課されたミッションは、「外国人労働者を雇うことに抵抗を示す日本企業に対しその受け入れを促すサービスまたは企画を立案する」というものでした。このミッションに対して、参加者は2つのグループに分かれてアイデアを出し合い、約1ヶ月半にわたって議論を重ねてきました。今回のキャリアシンポジウムでは、その編み出した企画について、両グループが英語で発表を行いました。筆者がこのプログラムに参加した理由は、2年次秋学期の海外留学研修の前に、キャリアについて考える機会を持ちたいと考えたからであり、先輩方と一緒にこの課題に立ち向かいました。
まず最初に直面した困難は、問題背景や必要条件などの全体像の把握です。外国人労働者と受入企業の両方にどのような課題が内在しているのかを探り、それに対する解決策を練ることが最初の試練でした。様々な視点からこの問題を捉えなければならないだけでなく、商船三井様より課された、「利潤を産むことができる、持続可能である、法律を遵守している、一年以内に始動できる」といった条件を満たす現実的なプランを練ることは、日々取り組んでいる学術的な文献を用いた課題とは全く異なったため苦労しました。
次に直面した困難は、ビジネスプランに具体性や妥当性を持たせるという点です。プランの実施期間や支出するコスト、リスクヘッジなど、実益の損得について細かく勘定立てるという経験があまりないため、頭を悩ませました。また、市場のニーズや問題点などをより正確に捉えるために必要なデータや、利益を求める際に不可欠である統計や資料、価格表などを調べることに多くの時間を費やしました。実際に利益の理論値を明示する際のデータ間の関係性などを考慮し、順序立てて計算する作業も複雑で非常に大変でした。
最後に最も難しいと感じたのが、金銭的な利潤が出る計画を練るという点です。大学で学んでいる学術的な議論の中では、一般的に、実益を優先せず、問題に対しての調査・検証・実験に基づく解決策、それを実践することで期待できる社会への貢献を理論立てて説明していくことが多いです。一方、ビジネスの世界では、利害関係者の利益を優先して考えます。利益を出すためにどのようなニーズや社会問題が潜んでいるか市場調査等を通して把握した上で、ビジネスプランを作成します。そのため、前者を学んでいる私たちは「利益を出すための問題点・解決策探り」という普段とは異なる思考アプローチに困難を覚えました。また、大学生活の中でレポートを作成する際、具体的な数字を示すことはあまりなく、レポートの中での議論を元にして結論を導き出すことがほとんどです。そのため、「金額をはっきり出す」という課題は、本学部の学生にとって新鮮であり、算出方法を導き出すことにも四苦八苦しました。
プログラム全体を通して商船三井様より課されたミッションは、「外国人労働者を雇うことに抵抗を示す日本企業に対しその受け入れを促すサービスまたは企画を立案する」というものでした。このミッションに対して、参加者は2つのグループに分かれてアイデアを出し合い、約1ヶ月半にわたって議論を重ねてきました。今回のキャリアシンポジウムでは、その編み出した企画について、両グループが英語で発表を行いました。筆者がこのプログラムに参加した理由は、2年次秋学期の海外留学研修の前に、キャリアについて考える機会を持ちたいと考えたからであり、先輩方と一緒にこの課題に立ち向かいました。
まず最初に直面した困難は、問題背景や必要条件などの全体像の把握です。外国人労働者と受入企業の両方にどのような課題が内在しているのかを探り、それに対する解決策を練ることが最初の試練でした。様々な視点からこの問題を捉えなければならないだけでなく、商船三井様より課された、「利潤を産むことができる、持続可能である、法律を遵守している、一年以内に始動できる」といった条件を満たす現実的なプランを練ることは、日々取り組んでいる学術的な文献を用いた課題とは全く異なったため苦労しました。
次に直面した困難は、ビジネスプランに具体性や妥当性を持たせるという点です。プランの実施期間や支出するコスト、リスクヘッジなど、実益の損得について細かく勘定立てるという経験があまりないため、頭を悩ませました。また、市場のニーズや問題点などをより正確に捉えるために必要なデータや、利益を求める際に不可欠である統計や資料、価格表などを調べることに多くの時間を費やしました。実際に利益の理論値を明示する際のデータ間の関係性などを考慮し、順序立てて計算する作業も複雑で非常に大変でした。
最後に最も難しいと感じたのが、金銭的な利潤が出る計画を練るという点です。大学で学んでいる学術的な議論の中では、一般的に、実益を優先せず、問題に対しての調査・検証・実験に基づく解決策、それを実践することで期待できる社会への貢献を理論立てて説明していくことが多いです。一方、ビジネスの世界では、利害関係者の利益を優先して考えます。利益を出すためにどのようなニーズや社会問題が潜んでいるか市場調査等を通して把握した上で、ビジネスプランを作成します。そのため、前者を学んでいる私たちは「利益を出すための問題点・解決策探り」という普段とは異なる思考アプローチに困難を覚えました。また、大学生活の中でレポートを作成する際、具体的な数字を示すことはあまりなく、レポートの中での議論を元にして結論を導き出すことがほとんどです。そのため、「金額をはっきり出す」という課題は、本学部の学生にとって新鮮であり、算出方法を導き出すことにも四苦八苦しました。
しかしながら、どちらのグループもメンバーと協力してアイデアを練り、より具体的なビジネスプランを作成することができていました。最初に発表したグループAは、日本国内における外国人労働者の雇用を促す策として、主に3つの案を打ち出しました。1つ目は、「人材派遣を必要としている会社をターゲットとしてビジネス用SNSなどを活用したオンラインイベントを開催し、商船三井様の人材派遣事業を紹介する。加えて、双方向的なコミュニケーションをとる機会を設ける」というものでした。これにより、新規顧客の獲得やサービスの向上、言葉や文化の違いへの理解を促すことができるという利点があるとしました。2つ目は、「顧客と、留学生や中途採用の外国人労働者とのマッチングを支援するための就業体験プログラムを実践する」というものでした。このプログラムを実践することの利点として「文化の統合、職業に関する経験・知識の熟知、関係性の構築」の3つが挙げられていました。また、このプログラムは、企業側にとって収益や市場の拡大、知名度の獲得という利点があり、顧客側にとっては外国人人材派遣を代行してもらうことによる長期間雇用の保障や金銭的・時間的猶予が得られるという利益があることを示しました。3つ目には、「日本企業が人材不足に困窮する中、外国人労働者雇用のニーズが高まっていることを踏まえて、On-the-Job-Training(OJT)サポーター事業を導入し、雇用に際する文書作成や外国人労働者への説明などを担う人材を確保する」ことを提案しました。これら3つの段階的な雇用プロセスを踏むことによって安定した金銭的な利益が企業側とその顧客のどちらにも発生し、また、信頼関係構築により長期的な利益も期待できると結論付けていました。
次に発表したグループ Bは、外国人労働者雇用に関する社会問題の背景として、「受け入れ企業側には変革を避けようとする保守的な傾向がある」、「外国人労働者側はキャリア構築への不安を抱えている」、「社会全体が人材不足に苦しんでいる」の3点を示していました。さらに、これらの問題に加えて、企業側のデメリットとして「人材派遣ビジネスが比較的新しい事業であるがゆえに、他に展開している事業と比べて認知度が低いという短所がある」と指摘していました。これらを踏まえて、グループ Bは、企業の顧客ターゲットとして、地方のホテルに注目していました。具体的には、地方に訪れる外国人観光客数の増加が見られる一方で、地方のホテル従業員の英語力が都心に比べて低い点や、近年のコロナショックによる正規社員の人材不足を問題点として挙げていました。また、外国人観光客の約半数が日本でのホテル宿泊を避ける理由として、「英語でのサービスが提供されていないこと」があるというデータを用いることで、従業員の英語力強化の重要性を訴えていました。これらを踏まえ、地方人気のトレンドを活かしながら問題を解決する手段として、活動的学習プログラム「Active Study Program(以下、ASP)」を含めた3ヶ月の長期インターンシップを提案していました。ASPの利点としては、2ヶ月間の労働時間内における20時間であれば好きな時間に自主学習ができるため柔軟性がある点と、英語力測定のための試験代は企業側が支出するため、従業員の金銭的な負担がないことが挙げられていました。また、これに加え、外国人インターン生が英語の先生としての役割を担いながら相互交流を促すことで、従業員もより実用的でビジネスに特化した英語を学ぶことができるだけでなく、異文化交流による偏見の払拭が期待されるとしていました。このプログラムの導入により、サービスの向上やホテル評価の基準となる「星」が増えることが期待され、その結果として、部屋の単価を底上げすることができ、地方人気のトレンドを活かしてさらに大きな利潤を産むことに繋がると訴えていました。加えて、そのような成功例をビジネス用SNSや社外報で拡散することによって、さらなる知名度向上が見込めると主張していました。このようなプログラムの実施は、企業と顧客に対しては持続的な金銭的利益や宣伝による認知度の獲得、また、国内外の労働者個人や社会全体に対しては外国人人材の受け入れ体制やそれに伴う環境の整備といった、額面には反映されない好影響がもたらされるとして発表を終えました。
プレゼン終了後、株式会社ソーシャライズの中村様より「実務経験がない中で、多くのことを調べあげ、練った企画案を英語で発表してくれたことは異文化コミュニケーションの実践において素晴らしい成果だ」と貴重な総評を頂きました。
学部生や留学生と「異文化共同体」として協働する経験は、これからの多文化社会を自分たちで構築し、その中で生きていく筆者にとって大きな財産となりました。グローバルな会社で働いていらっしゃる方々やグループの仲間とのコミュニケーションを通して、社会で生き抜いていくための柔軟な対話力と自分の意見を仲間に理解してもらうためのプレゼン力の向上を図ることができました。また、ビジネスの視点を通して社会や顧客のニーズを汲み取り、外国人労働者問題を解決する手段を練るという経験は、将来、「教育」によって多文化共生社会を構築していきたいと考えている筆者にとっても、キャリアをより具体的に思い描くための実践知や、自身と社会を内外的に見つめ直すための機会を与えてくれました。(1年次 庵本愛斗)
プレゼン終了後、株式会社ソーシャライズの中村様より「実務経験がない中で、多くのことを調べあげ、練った企画案を英語で発表してくれたことは異文化コミュニケーションの実践において素晴らしい成果だ」と貴重な総評を頂きました。
学部生や留学生と「異文化共同体」として協働する経験は、これからの多文化社会を自分たちで構築し、その中で生きていく筆者にとって大きな財産となりました。グローバルな会社で働いていらっしゃる方々やグループの仲間とのコミュニケーションを通して、社会で生き抜いていくための柔軟な対話力と自分の意見を仲間に理解してもらうためのプレゼン力の向上を図ることができました。また、ビジネスの視点を通して社会や顧客のニーズを汲み取り、外国人労働者問題を解決する手段を練るという経験は、将来、「教育」によって多文化共生社会を構築していきたいと考えている筆者にとっても、キャリアをより具体的に思い描くための実践知や、自身と社会を内外的に見つめ直すための機会を与えてくれました。(1年次 庵本愛斗)
おわりに
今回のシンポジウムは、「国際協力×バイリンガリズム」という一見、異色の分野を融合させた斬新なテーマで行われました。基調対談での石井先生、森先生による領域横断的な議論は、それぞれ独立しているように見えるトピックも全て「異文化コミュニケーション」というフィールドで繋がっているのだということを私たち聞き手に実感させてくれるものでした。また、パネルディスカッションでは、学部での学びがどのように関連し合い、自分の興味やスキルが構築されていくのかを学部生のお二人から、さらにその学びがどのように卒業後に活きるのかを卒業生のお二人から伺うことができました。最後に、ポスター発表、On Campus Internshipの発表では、本学部の多様で包括的な学習プログラムを理解することができたと共に、実際にプログラムに挑戦し、その魅力を自ら発信しようとする学部生たちの雄姿が見られました。
筆者はこのシンポジウムを通し、自身が関心を持つ国際協力のフィールドがバイリンガリズムという全く異なる分野と深く関連していることを知り、自身のこれからの学びの視野が広がったように感じました。ご登壇、ご来場いただいた皆様につきましては、心より感謝申し上げます。 (1年次 瀧上奈月)
筆者はこのシンポジウムを通し、自身が関心を持つ国際協力のフィールドがバイリンガリズムという全く異なる分野と深く関連していることを知り、自身のこれからの学びの視野が広がったように感じました。ご登壇、ご来場いただいた皆様につきましては、心より感謝申し上げます。 (1年次 瀧上奈月)
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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