公開セミナー「フィリピン—麻薬撲滅戦争とコロナ禍が隠れみのにされる超法規的処刑」
INFORMATION
フィリピンでは2016年6月末にドゥテルテ大統領が就任し、翌月「麻薬撲滅戦争」を展開してから4年以上が経ちました。2020年6月、国連人権高等弁務官は独自の調査にもとづくフィリピンの人権状況についての報告書を作成し、第44回国連人権理事会(2020年6月15日~7月3日開催)に提出しました。それによりますと、フィリピン政府筋の情報のデータを少なく見積もっても2016年7月以降8663人が「麻薬撲滅戦争」で殺されたといいます。一方複数の人権団体は、犠牲者の数はその3倍にものぼると主張しています。また、人権擁護者、法律専門職、ジャーナリストなども少なくとも248名(2015~2019年)が殺害されたことが報告されています。
「麻薬撲滅戦争」や政治的な理由による殺害・傷害などは、「超法規的処刑」、つまり法的手続きに則らずに実施されており、それが大きな問題として懸念がよせられています。超法規的処刑そのものは、ドゥテルテ政権期になって増えたのではなく、過去の政権においても深刻な問題でした。一方ドゥテルテ政権では、支持の高い麻薬撲滅を隠れみのに超法規的な処刑が行われる傾向が強まっています。またコロナ禍の移動制限のもとで、被害者や遺族が納得のいく調査がなされないまま加害側の特定がうやむやにされるなど、これまで以上に免責される事件が増える可能性も否めません。
本セミナーでは、グロリア・マカパガル・アロヨ政権(2001年1月~2010年6月)以降のフィリピンの超法規的処刑を調べてきたヒューライツ大阪の藤本伸樹氏、多くの政治的処刑の現場の声を聞いてきた国際環境NGO・FoEの波多江秀枝氏、そして友人である南コタバト州アラベル町カワス村の村長が今年5月に殺害されるという事件に衝撃を受けた本学部の石井正子教授が、この事件の遺族の支援をしているジョナサン・ウランダイ牧師をオンラインで招き、麻薬撲滅戦争により正当化され、コロナ禍で捜査が進まない超法規的処刑の問題について報告します。
講師
一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)研究員
藤本 伸樹(ふじもと のぶき) 氏
民間企業勤務を経て、フリーライターに。1988年~1994年までフィリピンに滞在し、日本への移住労働者や日本の政府開発援助(ODA)などに関して取材。2001年から現職。2004年から近畿大学非常勤講師(人権科目)を兼務。国際人権基準に関わる情報発信に努めている。
国際環境NGO FoE Japan委託研究員
波多江 秀枝(はたえ ほづえ) 氏
2000年から国際環境NGO FoE Japanの「開発金融と環境チーム」でボランティアを始める。その後、インターンを経て、2001年から常勤スタッフとして、フィリピン各地で日本の官民が関わる大型水力発電ダムや鉱山開発などの現場を回り、現地の住民・団体と環境社会・人権問題の解決に取り組み続けている。2007年11月から同委託研究員。
フィリピンメソジスト教会牧師
Jonathan Ulanday 氏
1990年~2007年まで北ダバオ州、その後今日まで南コタバト州のメソジスト教会の牧師を務める。2011年に国立ミンダナオ大学ジェネラルサントス校の法学部卒業。ミンダナオ民衆弁護士連盟(Union of Peoples' Lawyers in Mindanao:UPLM)において人権擁護活動に従事。
異文化コミュニケーション学部教授
石井 正子
詳細情報
名称
内容
19:00~19:05
<司会>
藤本 伸樹 氏
19:05~19:20
藤本 伸樹 氏
「2000 年代から国連人権理事会で問われ続けるフィリピンの超法規的処刑」
19:20~19:35
波多江 秀枝 氏
「コロナ禍でも続く環境・人権擁護活動に対する弾圧と超法規的処刑」
19:35~20:25
石井 正子
ジョナサン・ウランダイ 氏(逐次通訳・石井正子)
「麻薬おとり捜査とある村長の死:親愛なる友人ジョニーの殺害と進まないコロナ禍での調査」
20:25~21:00
質疑応答