立教の新体制、始動
総長・副総長が語る「立教のリベラルアーツ」
2021/06/02
トピックス
OVERVIEW
2021年4月1日、文学部の西原廉太教授が第22代立教大学総長に就任しました。
5人の新副総長と共に、新たな体制がスタートします。
今回は総長・副総長による座談会を開催し、創立以来一貫して取り組んできたリベラルアーツ教育への思いや、創立150周年に向けた展望などを語っていただきました。
世界を読み解く力、世界を変えていく力を身に付ける
創立者チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教(アメリカ・1829~1910)
西原 この体制で2024年の創立150周年を迎えることに身が引き締まる思いです。チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が、聖書と英学を教える私塾「立教学校」を設立したのは1874年ですが、禁教令が廃されたのはその1年前。ウィリアムズ主教が願った教育に対する需要は、当時の日本にはほぼ存在しませんでした。もしウィリアムズ主教が現代のように市場的な原理で教育を考えていたならば、立教大学は存在していなかったといえるでしょう。ではウィリアムズ主教は何を教えたかったのか。それはリベラルアーツの原理であり、その目標は、世界を読み解く力、世界を変えていく力を身に付けることです。教育界や社会でリベラルアーツという言葉が多用されている今、立教大学にしか語り得ないリベラルアーツとは何か、今一度全学で確認し共有していきたいと思っています。
各分野でさらなる発展を
左から松井秀征、大石幸二、石川淳、西原廉太、長有紀枝、箕浦真生
松井 国際化推進を担当する法学部の松井です。立教大学の成り立ち自体が国際性を持っており、本学の国際化を考える際には常に立ち戻らなくてはならないと感じます。これまで立教大学は、多くの学生を海外に送り出し、また迎え入れてきました。国境を越えて学ぶことで、新たな視点や考え方を養い、さらに深い学びへとつなげることができます。リベラルアーツとの結び付きを意識して国際化を推進していきたいと思っています。
大石 キャンパス連携と教学を担当する現代心理学部の大石です。担当する上で二つの柱を考えています。まず、昨今のコロナ禍で象徴的に現れている事柄として、「健康で快適な人とのつながり」をいかに実現していくか。もう一つ、全学共通科目と各専門教育を有機的に連動させる体系をさらに発展させていきたいと考えています。
長 社会連携を担当します社会学部の長です。「社会連携」というとおのおの抱くイメージが異なるかもしれませんが、「社会貢献」の切り口から社会連携を見直す、というのが一つの鍵になると思っています。その際にSDGsが柱となり、現在多くの学内機関で多様な取り組みがなされていますが、これを「見える化」することが重要だと考えています。
箕浦 研究推進を担当する理学部の箕浦です。研究と教育を両輪と捉え、研究に基づく知見を教育に反映しつつ社会に還元したいと考えています。また、研究推進を進める上で切り離せない大学院の活性化を図ります。研究を起点とする好循環を生み出し、社会から選ばれる大学を目指してまいります。
石川 統括副総長を務める経営学部の石川です。私が実現したいのは、多様性あふれるキャンパス、多様性から学べる環境です。またコロナ禍の中で、教育の質を担保できている大学とそうでない大学の差が今後現れてくると予想されます。現状に満足せず、さらに質の高い教育を目指したいと考えています。
世界や他者に思いをはせる多元的な視点
※A:RIKKYO Learning Style(RLS)の体系。将来なりたい自分を思い描き、上図の体系で構成される学びを自由に組み立て、目標に向かって自律的に学ぶ立教大学独自のスタイル
※1 リーダーシップ教育:チーム全員が互いの強みを引き出しながら目標達成を目指す「次世代のリーダーシップ」を育む教育。他学部生や外国人留学生などとチームを組んで課題に挑む「グローバル・リーダーシップ・プログラム(立教GLP)」は、全学部生が履修可能。
※2 グローバル教養副専攻:所属学部で専門分野を学ぶ傍ら、専門以外の分野を1つのテーマに沿って学ぶプログラム。
※3 立教ファーストタームプログラム:入学後の最初の半年間にあたる「導入期」に行われる、新入生全員を対象とするプログラム。大学での学びに適応する基礎力を身に付けると同時に、立教生としての「土台」と「意識」を形成する。
※B:RSL‐ローカル(南魚沼)の様子。国内外で現地の人々と関わりながら、地域の課題解決に貢献する
※C
西原 リベラルアーツを通して得られるものが、世界を読み解く視点です。例えば、コロナ禍の中で手洗いが大切だといわれていますが、水とせっけんで手を洗える環境にない人が世界中には多数います。そうしたことに思いを至らせる視点、視座を身に付けることが重要です。
長 世界の過酷な状況を知り「日本に生まれて良かった」と感じる人がいるかもしれませんが、リベラルアーツを身に付けることで、そこで終わらせず「その先」に目を向けることができるでしょう。
西原 リベラルアーツは実学でないという意見もありますが、私は世の中に役立つ力だと思っています。多元的な視点を持って他者に思いをはせる、そうしたマインドが社会や企業でも求められているのではないでしょうか。
石川 私は過去にキャリアセンター部長を務めましたが、企業が求める即戦力とは、必ずしも専門的なスキルを指すのではなく、多元的な視点や論理的思考能力、さまざまな価値観を持つ人とのコミュニケーション能力などを指すのだと感じています。社会で活躍するために、RLSで「型」を学び、それを多元的な視点で活用できる力を身に付けることが大切ですね。
西原 RLSの仕組みは、立教大学が長年培ってきたキャリア形成の考え方を学習システムに反映したものであり、RLS自体がキャリア教育だと思っています。
石川 リベラルアーツというと幅広い学びを連想しがちですが、専門性の高い研究においてリベラルアーツの意義はどのようなものでしょうか。
箕浦 リベラルアーツの素養を持った人こそ研究を優位に進められると考えます。多元的な視点が、多様性のある創造力につながるからです。実学に基づく研究で既存のものを発展させることは可能ですが、本当の意味での創造性が求められる時にはリベラルアーツに基づく発想力が必要です。
複雑な事象を理解するための視点や手法を養う
松井 分かりやすい事象だけを捉えてグローバル化への賛否を議論するのではなく、そこにどういう問題が隠れていて、どのように捉えるのかが大切で、それがまさにリベラルアーツで語ろうとしていることです。目に見える具体的な事象を学ぶのではなく、その事象を理解するための視点や手法を養うものがリベラルアーツだと考えます。
西原 いずれコロナ禍が明けて国境を自由に往来できるようになったら、学生にはぜひ海外体験をしてほしい。母国語が通じない環境で孤立した時に初めて少数派の立場を理解し、帰国してからもマイノリティに対するまなざしが変わる。そうした新たな視点を獲得してほしいですね。
コロナ禍で得たものを糧に質の高い教育を実現
上:池袋キャンパス/下:新座キャンパス
大石 キャンパスは違っても、立教ファーストタームプログラムを通して立教生としてのアイデンティティを獲得する仕組みは確立されています。また授業のオンライン化が進み、空間的な距離が必ずしも障壁とならないことが明らかになりました。あとは池袋と新座で心理的な距離がどのくらいあるのか、この問題を考えることが一つの塊としての立教大学の在り方を見直すことにつながると感じます。
西原 キャンパスを超えて履修の自由度が増したことはオンライン化によるアドバンテージですね。対面での学びや活動が重要であることは確かですが、そこにオンラインの利点を組み合わせながら質の高い教育を実現していきたいと考えます。
石川 さまざまな教育方法を試してきた中で、オンラインが対面より効果的である部分も見えてきました。コロナ禍で得たものを糧に教育をさらに進化させることが大切で、授業内容や学問特性に合わせて最善の方法を選んでいきたいと考えます。また、効果的な学習方法について教員から学生に一方的に伝えるだけでなく、教員と学生が相互に学び合えるような場を作りたいと思っています。
オンラインと対面のミックス授業の様子
自らのミッションに最善を尽くす
ポール・ラッシュ博士の名前を冠する体育館「ポール・ラッシュ・アスレティックセンター」
西原 立教大学は日本の私学の中で最も歴史のある大学の一つであり、日本の高等教育を築いてきた立場といえます。その責任を果たすべく、これまでの歩みを再確認し、未来を考えていくことが重要です。戦前から戦後において立教大学に多大な貢献を果たしたポール・ラッシュ博士の言葉に「Do Your Best and It Must Be First Class」というものがあります。直訳すると「最善を尽くせ、そして一流であれ」。その意味するところは、勝つことが目標ではなく、自らのミッションに最善を尽くし、そのプロセスに誇りを持てるよう誠実に丁寧に、祈りを持って取り組むということだと考えます。その言葉と意味を学生たちに語っていきたいと思います。
※本記事は季刊「立教」256号(2021年4月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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