ジェンダー平等の実現に向けて—その背景と課題

異文化コミュニケーション学部 浜崎 桂子教授

2021/09/21

研究活動と教授陣

OVERVIEW

世界経済フォーラムが発表した2021年の「ジェンダーギャップ指数」で、日本は156カ国中120位という結果となりました。日本とランキング上位国との違いや日本における課題などについて、ドイツの文学や文化をジェンダーなど多様な切り口で研究する異文化コミュニケーション学部の浜崎桂子教授に伺いました。

ジェンダーに関するドイツでの事例

私が研究対象としているドイツは、ジェンダーギャップ指数※1で例年10〜15位くらいに位置しています。ドイツと日本の社会を比べると、さまざまな面でジェンダーに関する大きな違いを感じます。

※1 ジェンダーギャップ指数:「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野14項目のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示す。

同指数の指標の一つに「女性議員の割合」があり、2021年の日本は9.9%(衆議院)でした。ドイツは31.5%ですが、1980年代前半には現在の日本と同程度だったのです。そこから大幅に上昇した要因の一つが、70年代後半から90年代にかけてドイツの各政党が導入した「クオータ制」※2。女性議員を一定数確保することが市民の支持につながることが明確になったのです。

※2 クオータ制:性別や人種など特定の属性を基準に、一定の比率で人数を割り当てる制度。「クオータ」は英語で「割り当て」を意味する

メディアにおける「女性の描かれ方」も、ドイツでは時代とともに変化しました。かつては「強い母」「かわいい娘」といったイメージが支配的でしたが、現在は、社会のジェンダー意識の変化を反映して、「知的で格好良い」女性の活躍も目立ちます。例えば、テレビの政治討論番組の司会者の女性は、鋭く批判的な質問をしながら議論する姿勢が評価されています。
1.ジェンダーギャップ指数(2021)上位国および主な国の順位

「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」および内閣府男女共同参画局Webサイトから作成

2.ジェンダーギャップ指数(2021)日本とアイスランド各分野の比較

「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2021」から作成

3.G7各国のジェンダーギャップ指数比較

「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」および内閣府男女共同参画局Webサイトから作成 ※2018年公表までは、公表年のレポートが公表されていたが、2019年公表分は「GGGR 2020」となり、2020年のインデックスとして公表されたため、年の数字が連続していない

「隠れたカリキュラム」の弊害

日本の小・中学校などで、「男性、女性はこうあるべきだ」と無意識に刷り込まれてしまう、「隠れたカリキュラム」と呼ばれるものが存在します。男子から始まる名簿の順番や、教科書の中に登場する性別で役割を規定するような例文など。ここから生じるジェンダーギャップへの影響は大きく、問題意識は年々高まっており、ステレオタイプを再生産しないような試みが教育現場で進んでいます。

そうした中で私たちはジェンダー問題にどのように向き合うべきでしょうか。一つのエピソードですが、異文化コミュニケーション学部の学生から「サークルの合宿では女子が食事を用意するルールが伝統的に受け継がれている」という話を聞きました。一方で、そのサークルの学生たちは授業でジェンダーに関する世界の先端的な事例に触れています。そこから感じたのは、授業で得た知見を自分の生活や身近な問題に結び付けられていないということ。小さなことでも変えようとする努力が、やがて大きな変化、ひいては政治や社会を動かすことにもつながっていくのではないでしょうか。

ジェンダー平等がもたらすもの

ジェンダー平等は全人類にとって、あらゆる多様性の実現への第一歩だと考えます。ジェンダー問題に対するアプローチは他のさまざまなマイノリティの問題に応用できるのではないかと、ヨーロッパ諸国の状況を見てきた経験から感じます。

また、ジェンダー平等の実現は、ある意味で「男性を解放する」ことにもつながります。「女性はこうあるべき」という考えがあるがゆえに、「男性は家族を養うために自分を犠牲にして働くべき」といった価値観も存在し、それに苦しむ男性もいます。性別によって役割を決め付けられることなく、誰もが自分らしく生きられる社会というのがジェンダー平等だと考えています。

浜崎教授の3つの視点

  1. ジェンダー規範は、市民と社会の意識で変化していく
  2. 授業で得た知見を身近な問題に結び付けることが重要
  3. ジェンダー平等はあらゆる多様性の実現への第一歩


プロフィール

PROFILE

浜崎 桂子

異文化コミュニケーション学部 学部長・教授

学習院大学人文科学研究科ドイツ文学専攻博士課程満期退学。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員、神戸市外国語大学准教授などを経て、2008年立教大学に着任。専門分野はドイツ語圏移民文学、移民文化論など。

CATEGORY

このカテゴリの他の記事を見る

研究活動と教授陣

2024/10/02

インバウンド観光の今とこれから

観光学部 羽生 冬佳教授

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。