トランプ氏を選出した大統領選挙制度と新たな体制下における日米外交の行方
法学部政治学科教授 佐々木 卓也
2017/03/10
研究活動と教授陣
OVERVIEW
ドナルド・トランプ氏の勝利に終わった2016年のアメリカ大統領選。しかし、総得票数では約290万票もヒラリー・クリントン氏の方が多かったと報じられました。では、なぜトランプ氏が大統領に就任するのでしょうか? 日本でも多くの人が注目したアメリカ大統領選について、法学部の佐々木卓也教授に伺いました。
アメリカ大統領選の仕組みはどのようなものなのでしょうか。
"The New York Times"〈http://www.nytimes.com/elections/results/president〉(2017年1月4日)
アメリカでは、民主党と共和党の二大政党が伝統的に政権を争っており、大統領は実質いずれかの党から選出されてきました。4年毎、夏季五輪と同じ年に行われる大統領選では、まずは各政党が大統領候補を一人に絞り込むため、その年の1月から6月にかけて予備選挙や党員集会が行われます。そして、夏の全国党大会において党公認の大統領候補が正式に指名され、今回は、クリントン氏とトランプ氏が選ばれました。9月になると、いよいよ本選挙に突入し、そこで有権者は、各州の「大統領選挙人」(選挙人)を選んで投票します。
世界でも唯一のこの方法は、1788年に発効したアメリカ合衆国憲法によって定められています。当時、立法府が行政府の代表を選ぶ方法と、直接国民が選挙によって選ぶ方法が検討されましたが、前者の場合、立法府の言いなりになる可能性が指摘され、後者についても、アメリカの広大な地理的条件のもとで、候補者の人となりや見識を知る術がない一般市民が、健全な政治的判断を下すことは難しいとされました。そのため、中間策として、社会的に有識者と認められる人民の代表を州ごとに選挙人として選び、彼らに大統領の選出を委ねるという制度に落ち着いたのです。
世界でも唯一のこの方法は、1788年に発効したアメリカ合衆国憲法によって定められています。当時、立法府が行政府の代表を選ぶ方法と、直接国民が選挙によって選ぶ方法が検討されましたが、前者の場合、立法府の言いなりになる可能性が指摘され、後者についても、アメリカの広大な地理的条件のもとで、候補者の人となりや見識を知る術がない一般市民が、健全な政治的判断を下すことは難しいとされました。そのため、中間策として、社会的に有識者と認められる人民の代表を州ごとに選挙人として選び、彼らに大統領の選出を委ねるという制度に落ち着いたのです。
州を代表する選挙人は、どのように割り当てられているのですか。
選挙人は上院議員と下院議員の数をもとに、現在、全米で538人存在しています。上院は各州から2名と決まっており、50州で100人。下院は435人を人口に比例して割り振っています。さらに、首都ワシントンD.C.には3名の選挙人が割り当てられ、合計538人となり、過半数の270人以上の選挙人を獲得した候補が大統領となります。
選挙人は、どんなに人口が少ない州でも3人が割り当てられ、たとえ1票差であっても得票数が多い政党がその州全体の選挙人すべて(ただし、メーン州とネブラスカ州を除く)を獲得します。つまり、選挙人の割り当ての最も多いカリフォルニア州で勝利すると55人、最も少ない州の一つであるアラスカ州では3人にしかなりません。そこが今回のように得票数と結果との相違につながりました。
アメリカは州が独自の憲法を定め、それぞれに統治機構(立法・司法・行政)や軍事組織(州兵)を有しており、州ごとに法律も異なります。こうしたことから、有権者は、自身が住む州の市民であるという帰属意識が強くあります。現状のような州単位で大統領を選ぶ、州の権限を尊重した制度は、まさに連邦制度の妙技と言えるでしょう。
選挙人は、どんなに人口が少ない州でも3人が割り当てられ、たとえ1票差であっても得票数が多い政党がその州全体の選挙人すべて(ただし、メーン州とネブラスカ州を除く)を獲得します。つまり、選挙人の割り当ての最も多いカリフォルニア州で勝利すると55人、最も少ない州の一つであるアラスカ州では3人にしかなりません。そこが今回のように得票数と結果との相違につながりました。
アメリカは州が独自の憲法を定め、それぞれに統治機構(立法・司法・行政)や軍事組織(州兵)を有しており、州ごとに法律も異なります。こうしたことから、有権者は、自身が住む州の市民であるという帰属意識が強くあります。現状のような州単位で大統領を選ぶ、州の権限を尊重した制度は、まさに連邦制度の妙技と言えるでしょう。
トランプ大統領誕生により日米外交にどのような影響がありますか。
トランプ大統領誕生により、これからの日米関係について危惧する声が上がっています。特にトランプ氏は選挙期間中から、TPPからの離脱や米軍駐留費の増額要求などをほのめかしていたため、言葉通りアメリカ一国主義的な方針を実行に移すのであれば、日本は大きな影響を受けることが予想されます。アメリカと中国、あるいはロシアとの関係構築のいかんによっては日本のみならず、東アジアの国際情勢は大きく変化するでしょう。
しかし、これをチャンスとするしたたかさも必要かもしれません。アメリカはこれを機に世界から身を引き、各地域の自立性に委ねようとしているのです。つまり各国の裁量権は増すことが考えられます。
今後、アジア・太平洋を中心に日本と価値を共有する国々との外交を積極的に展開するなど、これまで以上に日本の外交手腕、バランス感覚が問われる時代になります。日本国内での重要な争点になっていくことは間違いないでしょう。
しかし、これをチャンスとするしたたかさも必要かもしれません。アメリカはこれを機に世界から身を引き、各地域の自立性に委ねようとしているのです。つまり各国の裁量権は増すことが考えられます。
今後、アジア・太平洋を中心に日本と価値を共有する国々との外交を積極的に展開するなど、これまで以上に日本の外交手腕、バランス感覚が問われる時代になります。日本国内での重要な争点になっていくことは間違いないでしょう。
佐々木教授の3つの視点
- アメリカ大統領選挙の仕組みは世界でも珍しい方式
- 自身の州で大統領を選ぶ意識が強い
- 日本にとっては独自の外交を展開する外交手腕、バランス感覚が問われている
(写真:読売新聞社)
※本記事は季刊「立教」239号(2017年1月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
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プロフィール
PROFILE
佐々木 卓也
1988年3月 一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得満期退学、法学博士。
日本学術振興会特別研究員、関東学院大学法学部法律学科助教授、
米国エール大学国際・地域研究センター客員研究員(フルブライト研究員)を経て、
1995年4月、立教大学法学部法学科助教授。
2001年4月より同学部政治学科教授。
2012年4月より法学部長(〜2014年3月)。
専門は、アメリカ外交史、日米関係史。
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。