多言語から複言語・複文化主義へ——新たな世界、広がる可能性

立教大学

2024/03/22

RIKKYO GLOBAL

OVERVIEW

立教大学では「複言語・複文化主義」に基づく言語系科目をはじめとする多様な科目やプログラムを展開しています。社会の中にさまざまな言語が存在する「多言語」に対し、「複言語」とは一人の人間の中に複数の言語が共存している状態を指します。グローバル化する世界の流れを踏まえた新たな言語教育カリキュラムについて、言語に関連する多彩な科目やプログラム、言語系科目全体の新たなステージと併せてご紹介します。

深化する言語教育カリキュラム

全学共通科目の言語系科目は、言語A(英語)と言語B(英語以外の多彩な言語)で構成されます。2020年度にカリキュラムを一新した言語Aに続き、2024年度から言語Bの新カリキュラムがスタート。「複言語・複文化主義」に基づく言語系科目の新たなカリキュラムについて、全学共通カリキュラム運営センター部長の浅妻章如教授、同センターで言語系科目の構想・運営を担う松本旬子准教授、新多了教授に伺いました。

浅妻 章如

全学共通カリキュラム運営センター部長
法学部教授

松本 旬子

全学共通カリキュラム運営センター
言語系科目構想・運営チームリーダー
外国語教育研究センター准教授

新多 了

外国語教育研究センター副センター長
外国語教育研究センター教授

なぜ「複言語・複文化主義」なのか

浅妻 立教大学は教育理念として「専門性に立つ教養人」の育成を掲げています。教養には「幅広さ」が重要であり、言語に関しても考え方は同じです。高校卒業まで言語は日本語と英語しか勉強していない人が多い中、それ以外の言語を新たに学ぶことで、自分の可能性は大きく広がります。

松本 現代において世界共通語といえる英語を学ぶことは不可欠ですが、英語以外にもさまざまな言語・文化圏が存在することを認識し、広い視野を持った世界観を育むことは必要です。英語に加え、英語以外の「言語B」を必修としていることは「複言語・複文化」を重視する立教の特徴といえるでしょう。

新多 言語は、その国・地域の文化的背景と密接に関わっているため「複文化」という考え方も大切にしています。

言語A、言語Bの基本方針

新多 英語は多くの学生にとって小学校から学び続けてきた言語です。ある程度の英語力を持っている前提で、その能力をさらに伸ばし、使えるようにする。これが言語Aの基本的な方針です。高校卒業までは文法やリーディングといったインプット中心の学びだったと思いますが、大学1年次の必修科目ではスピーキングやライティングなど、アウトプットも重視した学びを展開しています。自由科目ではより一層「英語で学ぶ」段階に入ります。

松本 言語Bは多くの学生にとって初習の言語です。現在のカリキュラムでは語彙ごいや文法を座学で学ぶスタイルがメインでしたが、新カリキュラムでは「使える」言語を習得することに重きを置いています。新たな言語の学びを通して見える世界があることを学生たちに伝えていきたいと思っています。

言語B新カリキュラムの概要

松本 言語B新カリキュラムの大きなポイントとして、言語Bを「RIKKYO Learning Style」に組み込み、「導入期」「形成期」「完成期」の各段階に適した科目を配置したことが挙げられます(図1)。1年次の必修科目には、20人程度の少人数で表現力を養うアウトプット中心クラスと、40人程度で基礎力を養うインプット中心クラスの2科目を配置。いずれの科目も、言語知識の獲得のみならず、言語の4技能全てにおいて場面や状況に応じて適切に運用できる能力を身に付けるため、内容を相互に連携させることで高い教育効果を狙います。自由科目は、目的に応じた履修ができるよう4領域に分類します(図2)。
松本 自由科目はこれまで2年次以降しか履修できませんでしたが、「留学準備領域」は1年次から履修が可能。これにより言語Bでそれぞれのニーズに合った自由度の高い学びを実現します(図3)。また、自由科目の「プロジェクト領域」には、より幅広い言語・文化に触れられるよう、インドネシア語、タイ語、タガログ語、ベトナム語を開設します。

浅妻 新カリキュラムでは、言語Aと言語BにCEFRセファール(ヨーロッパ言語共通参照枠)に基づき、言語の習熟度を6段階で示す「共通参照レベル」(図4)を導入。言語Bの異なる言語間においても共通した目標を設定し、教育内容や指導法の統一化を図ります。

英語カリキュラムについて

新多 2020年度に導入した英語カリキュラムでは、必修科目に「英語ディベート」、自由科目に「CLIL科目」を導入したことが大きなポイントでした(図5)。「英語ディベート」には入念なリサーチや論理的に考える力が必要です。「CLIL科目」は英語を使って何らかのコンテンツを学ぶため、とりわけ深い思考力が求められます。どちらの科目も学生にとって厳しい授業内容だからこそ確かな成長につながっていると感じます。

複言語・複文化の学びを通して身に付けてほしい力

浅妻 複言語を学ぶことで、さまざまな言語圏の人との交流が図りやすくなるのは大きなメリットです。そして海外に行っても臆さない度胸につながります。また、言語を学んでいるうちに、その国・地域の歴史的背景が理解できる瞬間があります。どのような勉強にもいえることですが、特に言語学修は新たな気付きを得られるチャンスが多い科目といえるでしょう。

松本 複言語・複文化の学びを通して、自分の知っていることが全てではないと気付いてほしいですね。「異文化」はどこにでもあると理解できれば、他者に対して寛容になり、それが世界平和につながるのではないでしょうか。

新多 複言語を学ぶことは相対的に日本語を分析する機会となり、日本語能力の向上にもつながります。また、多様な言語圏の人の思考に触れることで、自分の常識を疑い、自分なりに考えて判断する力が身に付くのです。自分の中にさまざまな能力を築いていけることが複言語・複文化主義の大きな利点であると考えています。

言語と文化、世界を幅広く学ぶ講義系の科目

全学部生が履修できる「全学共通科目」の「総合系科目」でも、「複言語・複文化主義」につながる科目を数多く開講しています。その一部をご紹介します。

言語Bで開講している言語圏の文化・社会・文学を学ぶ

ドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、朝鮮語の5言語圏は、それぞれ「文化」「社会」「文学」の3科目ずつ展開しています。おのおのの科目では、文化・社会と歴史・文学に関する分析や考察を通じて、背後にある言語文化や社会、生活を多角的に理解します。

※各言語圏の説明文は、2023年度のシラバスに基づくものです。

〔ドイツ語圏〕

ドイツ語とその文化、文学を学びながら、移民政策など社会や政治に関するテーマについて理解を深めます。

【科目】
・ドイツ語圏の文化
・ドイツ語圏の社会
・ドイツ語圏の文学

〔フランス語圏〕

フランス語圏の文化や歴史、文学作品について学習し、フランスが抱える社会問題や多様性を考察します。

【科目】
・フランス語圏の文化
・フランス語圏の社会
・フランス語圏の文学

〔スペイン語圏〕

スペイン語とその文化を学びながら、気候や自然環境、人々の移動など、スペイン語圏を立体的に読み解きます。

【科目】
・スペイン語圏の文化
・スペイン語圏の社会
・スペイン語圏の文学

〔中国語圏〕

中国語を公用語とする東南アジア諸国との関わりから言語圏の全体像を捉え、多元的な実態の理解を目指します。

【科目】
・中国語圏の文化
・中国語圏の社会
・中国語圏の文学

〔朝鮮語圏〕

日本との関わりを交えながら、古代~朝鮮王朝、植民地、韓流など多様な側面から考察し、深みのある理解を目指します。

【科目】
・朝鮮語圏の文化
・朝鮮語圏の社会
・朝鮮語圏の文学

多彩な文化とことばを学ぶ

世界のさまざまな言語圏の文化やことばを学びながら、言語の視点から思想、宗教、歴史、社会などを掘り下げ、さらに視野を広げて考察します。当該国・地域が抱える諸問題などについて理解を深め、他者に説明できる力を身に付けます。

【科目例】
・ヨーロッパの文化とことば
・イタリアと文化ことば
・ロシア・東欧の文化とことば
・ラテンアメリカの文化とことば
・アジアの文化とことば
・アフリカの文化とことば

世界を知る、手話や点字を学ぶ

国際情勢や世界の国々の諸状況、また言語としての手話や点字についてその人権などを考察します。

【科目例】
・国際情勢を読み解く
・世界の中のロシア
・手話と人権を考える
・点字から考える人権

日本の文化や精神を英語で学ぶ

外国語による総合系科目「F科目」は、日本研究を中心に世界を見据えて、英語で学びます。

【科目例】
・Japanese Ethnology
・Japanese Society and Culture
・Japanese Arts
・Japanese Mind

「グローバル教養副専攻」制度

学部・学科で専門性を深めつつ、興味・関心のあるテーマを選び、分野の枠を超えて学ぶ「グローバル教養副専攻」も「複言語・複文化主義」を体現したプログラムです。特に「Language & Culture Course」では世界の多様な言語や文化を学ぶ科目を多数設置しており、世界を俯瞰ふかんする広い視野、多層的・複眼的な視点を養います。

4つのポイント

  1. 興味・関心に応じて選べる3コース・23テーマ
    3つのコースがあり、各コースはそれぞれ複数のテーマで構成。学びの目的や目指すキャリアを踏まえ、興味のあるテーマを選択できます。
  2. 海外体験への参加
    所定の科目の履修に加え、大学が認定する海外体験が修了要件となります。正課外プログラムや自主企画の留学も対象にできます。
  3. 日本を「発信」する力も養う
    日本を理解し、発信する力もグローバル教養人には必要です。「自己理解」や「異文化との相互敬意」を養う科目の履修を定めています。
  4. 修了証を発行
    グローバル教養副専攻を修了すると、副専攻の修了証が発行されます。
3つのコース

Arts & Science Course

幅広い知識と教養、総合的な判断力を養うコース

Language & Culture Course

多文化理解や外国語を使う力を身に付けるコース

Discipline Course

学部や学内諸機関が提供する科目を中心としたコース

語学力向上に向けた支援制度

英語力伸長度測定テスト
自身の英語力を測り、今後の学習に活用するために、英語力伸長度測定テストを全学部生対象に実施しています。受験料は無料です。
語学検定試験の受験料補助
海外留学促進ならびに外国語の継続学習の促進を目的として、各種検定試験受験料の一部を補助しています。

短期海外プログラム(言語系科目)

全学共通科目の言語系科目では、多様な言語圏における2~4週間の「言語文化研修」を設けています。

プログラムの例
  • 英語海外文化研修
  • ドイツ語海外言語文化研修
  • フランス語海外言語文化研修
  • スペイン語海外言語文化研修
  • 中国語海外言語文化研修
  • 朝鮮語海外言語文化研修

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