立教大学メサイア演奏会 60周年——立教史上初!コロナ禍の無観客・オンライン配信
立教大学
2022/04/12
キリスト教とチャペル
OVERVIEW
2021年12月7日、立教大学のクリスマスを象徴する行事の一つ「メサイア演奏会」が第60回を迎えました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による昨年度の中止を経て、無観客・オンライン配信という初めての形態となった2021年度。リアルタイム視聴は5,000人を超え、1月下旬の時点では15,000回以上再生されています。観客、参加者を問わず多くの人を魅了し続ける演奏会の魅力に迫ります。
連綿と受け継がれる、立教人の誇り
第60回メサイア演奏会パンフレット表紙
メサイア演奏会が立教大学で始まったのは1962年のこと。「キリスト教に基づく教育」を建学の精神とする本学では、昔からクリスマス礼拝やキャロリングなど多様なクリスマス行事が催されていました。そうした中、学生団体から「オール立教で大きなイベントを開催したい」との声が上がったのです。当時のチャプレンや音楽団体の部長を務める教員からも「借り物でないメサイアを立教人の手で演奏できないだろうか」という希望が聞かれるようになりました。
立教大学交響楽団およびグリークラブで部長を務める星野宏美教授(異文化コミュニケーション学部)はメサイア演奏会の誕生について、このように語ります。
「学生団体やチャプレンと一緒に尽力されたのが、本学で長く音楽専任教員を務められた辻荘一※1先生と皆川達夫※2先生です。そのご縁から指揮と独唱、鍵盤楽器を外部の高名な先生方にお引き受けいただくことになりました。そうして、音楽課程を持たない大学であって、合唱もオーケストラもその大学の学生による日本唯一のメサイア演奏会が生まれたのです」
※1 辻 荘一(1895-1987):立教大学名誉教授。音楽学者。日本音楽学会の設立に尽力し、日本における音楽学の発展に貢献。立教大学グリークラブを創部。
※2 皆川 達夫(1927-2020):立教大学名誉教授。音楽学者。中世・ルネサンス音楽研究の第一人者として知られる。立教大学交響楽団、立教大学グリークラブの部長を歴任。
その後、メサイア演奏会は60年にわたって受け継がれ、いまや立教大学のクリスマス行事の中で最大規模のイベントとなっています。
「第60回演奏会の当日、私は研究のためドイツ滞在中でしたが、オンライン配信によりリアルタイムで視聴でき、こうした形にもポジティブな側面があると実感しました。私たちの誇りである立教大学メサイア演奏会は今後も力強い歩みを続けていくことでしょう」
開始初期のメサイア演奏会
メサイア演奏会をつくる「人」
2021年度は密集を避けるため100人程度に絞って演奏会をつくり上げました。
メサイア実行委員会
開催に関わるあらゆる運営業務を担当。委員数約20人。学内参加団体のいずれかに所属する学生で構成される。
立教学院諸聖徒礼拝堂聖歌隊
合唱担当。1919年創設。隊員総数約40人。チャペルで行われる礼拝や式典などで歌を用いた奉仕活動を行う。※
立教大学グリークラブ
合唱担当。1923年創部。部員総数約80人。年数回の演奏会をメインに、混声、女声、男声と多様な編成で活動。※
立教大学交響楽団
伴奏担当。1920年創部。部員総数約150人。弦・管・打楽器で編成される大所帯のオーケストラ。※
指揮者
学外のプロフェッショナルが務める。過去60年間で合計5人の指揮者がタクトを振る。
ソリスト(独唱者)
学外のプロフェッショナルが務める。基本的にソプラノ、アルト、テノール、バスの4パートで構成。
チェンバリスト/オルガニスト
学外のプロフェッショナルが務める。チェンバリストとは、16~18世紀に広く使用された鍵盤楽器・チェンバロの奏者。
一般参加合唱者
例年、学外を含めた一般参加合唱者を募集。2021年度はコロナ禍のため、卒業生に限定。グリークラブと交響楽団の卒業生9人が参加。
第60回 立教大学メサイア演奏会開催概要
場所 東京芸術劇場コンサートホールより生配信
出演 指揮/上野正博
ソプラノ/佐竹由美 アルト/山下牧子
テノール/小貫岩夫 バリトン/久保和範
チェンバロ・オルガン/大藤玲子
合唱/立教学院諸聖徒礼拝堂聖歌隊、
立教大学グリークラブ、一般参加合唱者
演奏/立教大学交響楽団
主催 立教大学メサイア実行委員会
第60回メサイア演奏会ができるまで
- 3~4月 実行委員(「メサイア準備委員会」)が集まり、開催形式を検討。
- 5~6月 練習の日程調整などを開始。
- 7~8月 無観客・オンライン配信による開催を決定。
- 9月 各団体にて練習を開始。
- 10月 任命式にて「メサイア実行委員会」が正式に発足。
- 11月 参加者が一堂に会する全体練習を開始。
PHOTO GALLERY~写真で見る第60回メサイア演奏会
1 舞台セッティング 9:00~
2 リハーサル 13:10~
3 開演 18:00~
メサイア演奏会によせて
運営を通して実感できた人と人とのつながりの尊さ
第60回メサイア実行委員会委員長/交響楽団所属
経営学部3年次
古宮 夏美さん
とにかく無事に終わって良かった̶̶それが、演奏会の幕が下りた時に思った率直な感想です。コロナ禍の先が見えず開催可否が読めない中での準備や、感染拡大防止に注意しながらの運営は、想像以上に大変でした。また昨年度、中止になったことも影響して運営のさまざまな場面で分からないことが多く、たくさんの方に頼り、助けられました。時には、大学を卒業している先輩に教えを請うことも。演奏会が終わった時に舞台袖で、総長や大学関係者の方から「大変だったと思うけど、素晴らしい演奏会だった」とおっしゃっていただけた時は感無量でした。実行委員会の仲間とは「本当にお疲れさま」「ありがとう」と、お互いに労をねぎらいました。コロナ禍によって対面での交流が制限された日々だったからこそ、改めて人と人とのつながりの尊さを実感できた、とても貴重な機会になったと思います。
開催形式について議論を重ねた末、2021年度は無観客・オンライン配信での開催となりました。前例のない形式ゆえの苦労はあったのですが、この形を選んだ理由の一つに、遠距離や仕事などの都合で観ることができない方も含め、より多くの方に観ていただきたいという思いがありました。結果として5,000人以上ものリアルタイム視聴があったと知り、大きな喜びを感じています。
私が委員長に志願したのは、これまでの人生でリーダー的な立場を務めた経験がなく、新しいことに挑戦したいという思いからでした。委員長の業務にあたって役立ったのが、私が在籍する経営学部で特に注力しているリーダーシップ教育です。組織をまとめたり、会議を円滑に進行したりする上で、授業やゼミで得た知見は大きな力になりました。また運営を通して身に付いたと感じるのが、想定外の事態が起こった時に「どうしよう」と右往左往するのではなく、あらゆる手段を尽くして問題解決に努める姿勢。臨機応変に対応する柔軟性や、一人で抱えず周りの人に頼る力は、社会人になってからも生かしていきたいです。
メサイア演奏会には1年次に演奏者として参加したことがあり、伝統ある行事だとは認識していました。その上で、経験者である卒業生の方々が口々に素晴らしいイベントだとおっしゃっているのを聞き、運営業務に改めて大きなやりがいを覚えました。多くの立教人が大切にしている演奏会を今後も継続し、発展させていけるよう、今年度の反省点を実行委員会で共有し、次の代に引き継いでいきたいと思います。
「いばらの道」を進んだ実行委員に尊敬の念を
理学部4年次
平川 剛隆さん
中止となった2020年度、私は実行委員長を務めていました。コロナ禍の状況を考えると中止はやむを得ない判断でしたが、指揮者を退任された増田宏昭先生に申し訳ない気持ちでした。一方、委員長として多様な意見を聞き、議論を尽くした上で意思決定を行った経験は今後の糧になると感じます。今年度も開催の判断が難しい状況の中、「いばらの道」を進んだ実行委員会の皆さんには尊敬の念を覚えます。合唱者として出演した第60回は最高の舞台でした。そして、多くの立教人の大切な場所であるメサイア演奏会を復活させることができた喜びは言い表せません。
演者と運営の兼任で鍛えられたコミュニケーション力
文学部3年次
瀧口 萌さん
コロナ禍の影響により対面での練習が制限され、合唱の質を高めるのに苦労しました。そうした中でも普段は接点のない聖歌隊、交響楽団と共に活動できたことは大きな刺激に。今回、私は合唱者でありながら実行委員会でも活動し、演者と運営の橋渡し的な役割が果たせるよう努めました。そこで鍛えられたコミュニケーション力は将来、社会に出た時に生かしたいです。2020年度の中止でノウハウの継承に苦慮しましたが、だからこそ再開できたのは大きな意義があったと思います。立教の伝統が末永く続くよう、今後も皆でメサイア演奏会を盛り上げていきましょう。
支えてくれた方のありがたさが、より身に染みた演奏会
コミュニティ福祉学部4年次
中原 花菜さん
指揮者とコンタクトを取りながら伴奏を取りまとめるコンサートミストレスを務めました。メサイア演奏会は、東京芸術劇場という素晴らしい舞台に立って、独唱や合唱と共に演奏できる得難い機会です。今回はコロナ禍の影響で練習や準備が大変だっただけに、支えてくださった方のありがたさが例年以上に身に染みた演奏会でした。困難を乗り越え、仲間と協力して一つのものをつくり上げた事実は今後の自信につながると思います。2020年度の中止を経て、一からの再出発となった第60回。これをベースに来年度はもっと良い演奏会になると確信しています。
- 1960年頃
メサイア演奏会の実現に向けた議論や準備がなされる。
- 1962年
第1回メサイア演奏会を文京公会堂(文京区)にて開催。初代指揮者は金子登氏(東京藝術大学名誉教授ほか)。
- 1986年
第25回メサイア演奏会をサントリーホール(港区)にて開催。
- 1987年
指揮者に佐藤功太郎氏(元・東京藝術大学教授ほか)が就任。
- 1991年
池袋の東京芸術劇場(豊島区)にて開催。以降、同劇場での開催が続く。(2011年を除く)
- 2006年
指揮者にスコット・ショウ氏(立教大学文学部キリスト教学科教授)が就任。
- 2008年
指揮者に増田宏昭氏(元・ザールラント州立歌劇場[ドイツ]首席指揮者ほか)が就任。
- 2011年
第50回メサイア演奏会を東京文化会館(台東区)にて開催。
- 2020年
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により初の開催中止。
- 2021年
指揮者に上野正博氏(東京藝術大学大学院講師ほか)が就任。
忘れられない一般参加合唱での感動
メサイアの歌詞は『欽定訳聖書』と英国教会の『祈祷書』(1662版)の詩編という聖公会が歴史的に大切にしてきた「言葉」で編まれています。ヘンデルはロンドンにある聖公会のウェストミンスター寺院に葬られています。聖公会によって創立された立教大学が、こうしてメサイア演奏会を開催するのも、まさしく必然といえるでしょう。実は私も1998年に本学に着任してすぐの頃、一般合唱で参加させていただきました。皆さんと共に演奏会を創り上げていく感動は忘れられない思い出です。今回のオンライン配信によって、例年は遠方等で会場にお越しになれなかった方々にも素晴らしいメサイアを味わっていただけたなら幸いです。
※本記事は季刊「立教」259号(2022年2月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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