神宮で躍動するみちのくの若武者——笑顔の理由は「当たり前」への感謝
野球部
2023/07/26
アスリート&スポーツ
OVERVIEW
大学スポーツの花形、硬式野球。立教大学は東京六大学野球連盟のリーグ戦で強敵と頂点を奪い合っている。2022年春季の優勝決定戦では明治大学に敗れるも、リーグ制覇まであと一歩のところまで迫った。沖政宗(法3)は激しい優勝争いの立役者だ。
対明治大学3回戦では緩急や配球によって相手を翻弄 する投球が光った。9回から登板すると、10回に二死1、2塁のピンチを招いてしまう。1本でも安打が出ると相手の優勝が決まる厳しい場面。しかし、沖は臆することなく右腕を振った。変化球を続けて、タイミングを外すカーブを投げる。打者の裏をかき、見事空振り三振に仕留めた。窮地を脱した沖は、マウンド上で雄たけびを上げ、あらん限りの力で拳を強く握りしめる。厳しい延長戦で疲弊するチームを盛り立てた。
奪われた青春の日々
投球する沖政宗
沖は福島県いわき市出身。名門・県立磐城高校に入学後、1年からベンチ入りを決める。2年の秋季東北大会ではベスト8。チームで取り組んだ台風19号のボランティア活動なども評価され、20年3月「21世紀枠」で46年ぶりに春の甲子園(第92回選抜高等学校野球大会)の出場権を手にする。関係者だけでなく、いわきの町が甲子園出場に大きく沸いた。しかし新型コロナウイルス感染症の感染拡大によってセンバツや夏の甲子園が相次いで中止となる。チームの目標を失い、自分たちは何のために野球をやっているのか分からず、途方に暮れる日々が続いた。
転機となった聖地・甲子園
仲間とグータッチで喜びを分かち合う
コロナ禍で活躍の場を奪われた高校球児へ向けて日本高等学校野球連盟が20年8月、甲子園での交流試合を企画した。最後の夏を仲間と夢見た聖地で迎えられるという感謝を胸に、臨んだ一戦。故障した肘への不安が残るも、沖は先発のマウンドへ。制球が定まらない中、味方の好守に何度も助けられる。健闘の末に惜敗するが、全身全霊でプレーする姿は地元の人々に勇気を届けた。次のステージでも自分が野球を楽しむ姿で人々を鼓舞したい。地元・福島への思いと野球への情熱を抱き、東京六大学野球の舞台に飛び込んだ。
チームを笑顔で勇気づける
荘司康誠投手(東北楽天ゴールデンイーグルス、23年3月社卒/左)と
21年の大学入学時から頭角を現し、リーグ戦初登板を果たした沖。22年は18試合に出場し、防御率1.54の好成績を記録した。今季から主力として部をけん引する立場に。仲間に支えられたあの夏とは違い、今度は自分がマウンドから味方を鼓舞する。「チームに少しでも良い雰囲気をもたらしたい」。重圧のかかる場面でも、常に笑顔を忘れない姿勢を大切にしたいと沖は語る。コロナ禍によって日常が奪われた高校時代。当たり前に野球ができる日々への感謝を忘れないために、マウンドに上がる際には必ず一礼。常に誠実で野球を誰よりも楽しむ様子は人々を魅了する。3年前、無観客の大舞台で活躍した右腕は神宮の舞台で大歓声に包まれるようになった。沖の野球は地元の人々にとどまらず、1万人もの観衆を活気づける。
「立教スポーツ」編集部から
立教大学体育会の「いま」を特集するこのコーナーでは、普段「立教スポーツ」紙面ではあまり取り上げる機会のない各部の裏側や、選手個人に対するインタビューなどを記者が紹介していきます。「立教スポーツ」編集部のWebサイトでは、各部の戦評や選手・チームへの取材記事など、さまざまな情報を掲載しています。ぜひご覧ください。
writing/「立教スポーツ」編集部
観光学部交流文化学科3年次 山岡雄一郎
writing/「立教スポーツ」編集部
観光学部交流文化学科3年次 山岡雄一郎
※本記事は季刊「立教」264号(2023年4月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
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